志望動機は化粧のように仕上げる

最近、「何がしたいの?」「なんで?」と問われることが多くて
うまく言葉に出来ずに困ることが良くあります。

そこでよく思い出すのが就職活動。

2009年リーマンショック当時のお話をしたいと思います。

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「理系出身なのに、なんで営業志望なの?」

そういわれると心臓が締め付けられる気がする。

そりゃ、リーマンショックだから営業への就職も仕方なく考えているんですよ。
景気良ければ志望なんかしていません。

そう言い返したい気持ちが胃の方から込み上げてきたが
食道のあたりでとどまっている。

結局、私は何も伝えられずにその就職面接は落ちてしまった。

「理系の人は理系就職しかできないのか」
「理系で文系就職した人はなんて回答したのだろう?」
私は答えを出せずにいた。

当時はリーマンショックの就職難真っただ中だった。
「派遣切り」「内定取り消し」という言葉を毎日ニュースで聞いていたころだ。

東北大学の大学院を出れば、就職は比較的スムーズに進むと思っていた。
実際、昨年の卒業生は好景気で大手に決まった人も大勢いた。

しかし不景気であればそうはいっていられない。
特にバイオサイエンス系の研究職の募集は非常に少ない。
「今年は募集をしていません」ということはザラだ。
募集をしていても「3名程度」というところに
何百人の就活生が殺到するのだ。

営業はなんだかおもしろそうだ。
一日中外を歩き回るのも性に合っているし、
お客さんと飲み歩くのも楽しめると思う。
なにより、事業所が都市部にあるというのが魅力だ。
研究職になってしまうと研究所は大体地方に設けられている。

しかし、「なぜ志望するのか?」という質問があまりにも怖くて
私は文系就職には非積極的だった。

当時は志望動機が書けずに20冊以上の就活アドバイス本へ目を通していた。

「父が運転手なので私は整備工を志望します」
「大学で発酵の研究をしていたのでビール会社へ就職したいです」

こんなことが書かれていた。

では、親と関係ない職種を希望するとき、
大学の専攻と関係ない会社を志望するとき、
どうすれば良いのだろう?

思考は水車のようにぐるぐる回り続けた。
くみ上げては吐き、くみ上げては吐き、
何かが積みあがることはなかった。

『志望動機は「なぜ?」を5回繰り返しなさい』

というロジックが当時はよく言われていた。

「少数精鋭の会社で働きたい。 ……なぜ?」
「早く仕事を覚えられるから。 ……なぜ?」
「出世したいから。 ……なぜ?」
「周りが自分のいう事を聞いてくれるから。 ……」

何故を繰り返しても答えにたどり着かない。

なぜ? の先には望む環境が出てくるだけだ。
「どんな境遇で仕事したい?」はあっても
「私は何をしたい?」が浮かび上がってこない。

ある日、ある精密機器メーカーへ応募をした。
新卒エージェント経由だ。

ありがたいことに書類選考が通過し、一次面接の日取りを決めることができた。
志望動機を3日考え続けた。

「マズイぞ?」

3日考え続けても、志望動機が浮かんでこない。

精密機器メーカーであるからには、バイオ系の研究経験は生かすことができない。
父は精密機器メーカーに勤めていた。
だからといって、「だから何?」なのだ。

選考の前日、意を決してエージェントに電話を掛けた。

「申し訳ありません。 志望動機がどうしても出来上がらないのです。 辞退させてください」

エージェントの担当者はドタキャンを申し出る私に
親身に相談に乗ってくれた。

「菅原さんは、自己PRでチャレンジ精神をよくアピールしてますよね。
この会社も新規事業に力を入れているんです。
『チャレンジしたい』という内容を伝えてみてはいかがでしょうか?」

目からウロコだった。
電話をかけていたのは新宿駅の西口だった。
いつもはくすんでいる京王百貨店の青い看板がコバルトブルーに見えた。

「ああそうか」

私はようやくハラオチした。

『大学で○○を専攻していた』という
ビビッドな “事実” より

『●●な考えを持っている」という
少しぼんやりした “志向” でいいのだ。

結果的に、この志望動機で私は最終面接を通過した。
12月に始めた就職活動は、9月になっていた。
今考えると、よくこの長丁場を堪えたものだ。

当時よく読んでいた就職情報誌に
『メイクの基本』というコーナーが掲載されていた。

平たく言えばこうだ。
「ハッキリした濃いメイクは、面接官に良い印象を持たれない。
ぼかして、ナチュラルメイクを目指しなさい」

就職活動の志望動機も同じなのだ。
濃い“事実”ではなく
すこしぼんやりとした“志向”の方が
相手の印象をよくすることができる。

見栄えが良くなる。

理系の人間が営業職に志望しても
仕上がりをよくすることができるのだ。

「素地の悪さを隠す」という意味でも、
志望動機と化粧は似ている。

こうして、私は志望動機を化粧のように仕上げて
翌4月には入社式に出ることができた。

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最後まで読んでいただきありがとうございました☀