世界最強の女帝・メルケルはなぜ謎だらけなのか?

「世界最強の女」戦後ドイツの八人目の首相アンゲラ・メルケルについて描く。
ドイツ市場初の女性首相だ。
ヒラリークリントンより先を行っているのだから様々なエピソードがあってもおかしくないのだが。
しかしその人柄はほとんど知られていない。

どうやらそれもそのはずのようだ。
メルケルについて知られていないのにはいくつかの理由がある。

1つ。ドイツと日本の関係は良くないからだ。本書を読んで驚いたが、日独伊三国同盟を結ぶなどし、ドイツ人と日本人は勤勉さが似ていると言われているように、日本とドイツの関係は深いように多くの人が考えている。しかし現実は逆だった。
ドイツは親中国だ。中国と一蓮托生の関係を構築している。
一方、メルケルがほとんど訪日しないことから分かる通り、ドイツは「日本無視」が基本方針のようだ。本質的には今も続いている。

2つ。自伝を出すなど、自己開示をほとんど行っていないからだ。ドイツ国内にもこんな声が上がっている。「メルケルは東ドイツの体制の下でどう生きていたのか。政治の表舞台に出るまでにどのような生活を送っていたのか。少女時代の生活が詳しく分からない」 「メルケルは何を本当に信じているのか。メルケルの本当の政治信条は何なのか」


3つ。2つめともリンクするが、彼女が東ドイツ出身であるという生い立ちが影響している。
東ドイツはソ連管轄下の社会主義エリアだった。東ドイツがどのような国かというと、他人を(否、身内や友人でさえも)容易に信用してはならない社会がソ連衛星圏の優等生国家、東ドイツだった。慎重に慎重を重ねるメルケルの「猜疑心政治」にも影響している。
実際、政治の現場で彼女の原体験としてこんなことを教訓に得ている。

メルケルは、メディアに重んじられるためには、情報を与え過ぎないことが肝要なのだと知った。今、首相としてのメルケルはあまり多くを語らない印象だが、過度な情報提供は自らの政治的権威を低下させ、力を弱めると認識したためかもしれない。メルケルは権威と情報の関係性に関わる「法則」を体験的に発見したと言えるだろう

会議の内容をマスコミに詳しく告げたが、彼女の評価が上がる訳でもなかったという失敗談から出ているようだ。

このような理由から、メルケルはメディアに対して自分のことを語る機会は多く持たなかった。

とはいえ、本書のタイトルは「メルケルの謎」という通り、彼女の人間性に対して様々な資料から注目している。

例えばバックボーンだ。
彼女はもともと政治の世界に居た人間ではなかったのだ。
物理学を専攻していて、35歳の時に突如政治の世界に入る。
その影響もあってか、なんだか華やかさはない。ハッキリ言って地味な部類に入るのだろう。

そんな彼女がなぜ政治の世界に入ったかはいまだに謎となっている。
本書のなかでは以下のように述べられている。

東洋風に言うなら、メルケルは「深淵に潜む龍」だった。長い間、龍は湖底深く、時をうかがう。だがいったん時を得るや、龍は風雲を呼び、稲妻とともに天に昇る。メルケルは三五年間、東ドイツという水の底で、泥に埋もれながらじっと時局をうかがっていたようだ。いつも野暮ったい服装をし、ファッションなどにはまったく興味はなく、ヘアスタイルにも無頓着、まるで運動神経はないが、抜群に頭脳の切れる学究肌。総合教育技術上級学校時代は「CDU」と陰で男子に揶揄されるほど、地味だった。

「メルケルは若い頃の性格から変わってしまい、機械を操作するように人を操縦する喜びを覚えていた。まるで麻薬のように権力はメルケルに中毒症状を起こしていた」

これだけ読むとアドルフ・ヒトラーを連想してしまう。
地味な女性がなぜ一国の女性初首相に進んでいったのか謎である。

かと思えば涙もろさを語るシーンも少なくない。
「最強の女」のイメージからは遠いが、彼女も彼女なりに苦労している。
ドイツの議会で根回ししていた人たちに裏切られ孤立するシーンでは涙を浮かべている。
こんなシーンも印象的だ。

「東からやってきた素性の知れない女などは相手にしない」と言わんばかりの西ドイツ・エリートの露骨な態度に、激しい怒りとともに屈辱感がメルケルの胸に込み上げてきた。  このとき、メルケルの暗い、灰色がかった緑色の目から、涙がこぼれた。


フランスでも訪問時に相手にされず涙ぐんだという。

他にも親父キラーという異名も持つ「キラー」というがまさにその通りだ。
男性から、常に引き立てられてきたメルケル。一方で引き立てた男たちは政治生命的に非業の死を遂げている。“メルコジ”と呼ばれたサルコジ大統領との関係も同様だ。
フランスの経済縮小を踏み台にし、ドイツは経済成長と遂げている。

最後に、慎重……いや憶病ともいえる性格にも言及したい。

飛び込む前に四五分も考え込むというメルケルの臆病なまでに慎重な性格を物語る挿話として語り継がれているが、確かに、時間をかけて考え抜き、熟柿が落ちるのを待つようにして決定を下す、後のメルケルの政治手法を予感させる光景ではある。

「わたしは決定的な瞬間には勇気が出るけれども、かなり長い助走期間が必要なのだと思っています。事を起こす前になるべくたくさん考え抜きたい。わたしは、はなから蛮勇を振るうタイプではないのです」

東ドイツ出身で猜疑心が培われたという考え方もできるが


これは別著「なぜ女は男のように自信を持てないのか」にも言及しているとおり、女性特有の自信のなさから来ているのかも知れない。


本書を読んで、メルケル本人の人柄を完全に読み解くことはできなかったが、
なんとなく読み解ける。
ロシア・アメリカ・欧州でもドイツの立ち位置も知ることができ、とても勉強になる本だった。